一般的に何かを真剣におこなうときに「集中力を発揮する」などといわれますが、ここでいう集中力、集中するとはどういうことでしょうか?

自分が決めた作業や、取りくむ内容に、最高のパフォーマンスを発揮できる状態のときに、集中している、といいます。

最近では、集中力と同じような意味で、「フロー状態」、「ゾーンに入る」などの言葉をよく目にすることがあります。

皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか?

それでは「フロー状態」、「ゾーンに入る」とはどういった状態なのでしょうか?

 心理学者のミハエル・チクセントミハイ氏が著書「フロー体験」第4章の「フローの条件」で説明している内容をピアノ演奏になぞらえて、わかりやすく当てはめてみると次の様になります。

①自分にとってちょうどよい最適な難易度の曲である。

②「演奏する」という行為が、完全に自分のコントロール下にある。

③音、タッチなど、演奏に関する状態から、明確な情報が得られている。

④集中を乱す周りの状況から、心が切り離されている。

 これらの4項目を、実際にピアノを演奏するときに、さらに詳しく当てはめてみると、つぎのようになります。

①テクニック的にも心理的にも、ある程度余裕を持って曲選びをすることが大切です。

テクニックが十分に演奏したい曲に追いついていないと、まず曲を弾きとおすことができませんし、たとえどうにか弾けるレベルまで練習できたとしても、常に必死な状態で演奏に取り組まなければならなくなるでしょう。

また、曲の内容、背景が複雑になっていくと、たとえテクニック的に十分に取りくめる曲であっても、精神的・音楽的な理解が追いつかない状態のため、曲の裏側にある訴える力を引き出せないことになってしまいます。

②自分が弾きこなすことが容易な曲を演奏する場合には、音楽的にも、テクニック的にもある程度余裕のある状態なので、1つ1つの音を自分自身でコントロールできているという充実感や、すべての音楽が、自分の手の内に入っているという満足感、安心感がある状態で演奏が行われている状態です。

③コンサートホールなどで、実際に音を出したときに、自分の求める響きがある程度良好な状態で自分の耳に届いてくれたり、また、初めて弾くピアノでも、自分のタッチのコントロールによって、良いレスポンスで音が美しく響くことなどが挙げられます。

演奏後に、たくさんの拍手がもらえることも直接的なフィードバックとなるでしょう。

④コンサートホールでの演奏中に、ドアが開閉され大きな音がしてしまったり、子供が大声で泣いてしまったり、物を落とすなどの大きな音が鳴ってしまったときや、照明が明るすぎて光が鍵盤等に反射し見えにくかったり、鍵盤が滑りやすかったり、といった集中力を乱す要因が少なければ少ないほど演奏に集中することができます。

 このような状態にいるときに、私たちは集中力を発揮しやすいと言っていいでしょう。そして、体にもまた、集中を長続きさせることができる状態があります。

 福岡大学の田中宏暁教授が提唱する「ニコニコペース」というスロージョギングの運動があります。

ニコニコペースとは、楽々と疲労感がない状態で長時間運動できるペースのことです。

この状態で運動ができているとき、糖だけでなく、脂肪も燃え、疲労物質である乳酸がたまらないギリギリの状態で動き続けるので疲労感がほとんどないのです。

曲の難易度が上がり、超絶技巧の曲などになれば一時的にそれを超えることもあるかもしれませんが、普段のピアノ演奏の90パーセント以上はこの「ニコニコペース」以下の運動で十分継続することができるのです。

人前の演奏で緊張しやすい人が、「心臓が口から飛び出るくらい緊張しました。まだドキドキしています!」と演奏後に興奮冷めやらぬ顔で息を切らせながら言っているのを聞くことがありますが、おそらくその状態は、「ニコニコペース」をはるかに超えた心拍状態で演奏しつづけ、時には無酸素運動のような状態で運動するため、筋肉の中にためていた糖を使い果たしてしまい、スタミナ切れを起こしてしまうのです。

演奏自体はすごくうまくいっていたのに、あるところで突然ミスをしたかと思うと、集中力が全くなくなってしまい、最後まで思うような演奏ができなくなり、がっかりしてしまった経験のある方もいるかもしれません。

仮にそこまでいかなくても、苦手なパッセージなどがあり、最初少し体に力が入った状態で、そのパッセージに突入すると、おそらく1分と持たずに前腕などの体の1部分が極端に疲労して正確な動きができにくくなるのです。(詳しくは後述します。)

 

 わたしたちは、仲の良い友達とおしゃべりに夢中になっているときや、自分が大好きなスポーツを楽しんでいるとき、また、楽しい映画を観ているとき、先が気になって仕方がない推理小説を読んでいるときなど、みなさんも何かしら楽しくて仕方がない状況、を経験したことがあるかと思います。

そいういう経験に集中しているとき、私たちは非常にみじかい時間しかたっていないと思っているにもかかわらず、たいていの場合、数時間があっという間にすぎさっていたりするものです。

人間は時計が刻む時間ではなく、実際に感じた時間を過ごしていると言われています。

すなわち、退屈な気持ちで暇つぶしにも飽き飽きしているときに、そろそろ1時間くらい経ったかな?と思って時計を見ると実際には5分しか経っていないとき、その人は5分の中で1時間の時間を実際に過ごすのです。

逆に楽しい感情を強く感じて集中しているときには、まだ5分しか時間がたっていないだろうと思って時計を見るとすでに1時間たっており、1時間の時間の中で5分の時間を実際に過ごすのです。

1年という時間が過ぎさったとき、集中している時間が長い人は、心も身体もその時間をより短く感じ、退屈している人は、心も体も、その時間をより長く感じるのです。

同様に、演奏に集中できれば、弾いている本人は、楽しくなり時間を短く感じます、そうすると、聴いている人も楽しくなり、時間を短く感じるのです。

つねに集中した状態で、日々、演奏することができれば、精神的にも身体的にも若々しくいつづけることができます。

素晴らしいですね!

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