練習していて、どうしてもテクニックでカバーできない箇所があったり、練習しても体が疲れたりして、自分の思うような演奏ができない場合があります。
練習の中で解決できない問題があるときは、次のように考えて見ましょう。
・今まで続けてきた練習方法はこの箇所をさらに美しく弾くために有効だろうか?
・同じ練習方法ばかりを繰り返していないだろうか?
・練習をおこなっている時に、すでにうまくいかないかもしれないと、「失望」していないだろうか?
もし、少しでも同じように感じたら、実業家のボブ・プロクター氏が提唱する「空間の法則」を利用して考えて見ましょう。
「空間の法則」とは「気に入らないものがあるのであれば、それを手放してください。そうすれば、あなたの欲しいもののためのスペースができます」というものです。
つまり、「何かを手に入れるには、その前にまず何かを捨てなければならない」ということです。
苦手な箇所を楽に弾きこなすことができる新しいテクニックが欲しければ、今まで弾いていたテクニック、すなわち、今までの弾き方を捨てればよいということです。
うまくいかない今までの弾き方に、何かを加えたり、または何かを引いたりして工夫するのではなく、全く新しい方法を探してみるということです。
テクニックの問題の詳細はここでは触れませんが(後に触れます)、弾きにくい場所で使っている自分の弾き方から一度離れて見て、大きく遠くから俯瞰してみることも大切です。
以前の弾き方をやめ、そこにスペースを空けてやれば、新しいアイデアが入ってくる場所ができ、色々なことに気づけるようになります。
ゆっくり1音1音、鍵盤の底?を意識して練習しても速く正確に弾くことができない。
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(1音1音正確につかまなければならないという考えから離れてみる)
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力を入れず、音が必ず正確に出ることにこだわらず、速く弾いてみる。
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弾きにくい場所で音が抜けたり、音が重くなったりする。
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その弾きにくい音の前の音を正確に打鍵しているか、または脱力して弾けているか確認してみる。
細かい音符が非常に速く動くパッセージで速く弾きたいが、音の粒が均一にならず速さも乱れる。
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指の第1関節(DIP関節)、第2関節(PIP関節)をきちんと動かして音をつかむ練習をするが理想的な状況に近づかない。
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(指の第1関節、第2関節をよりしっかりと動かして弾かなければならないという考えから離れてみる。)
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第1関節、第2関節を動かすことをやめてみる。第1関節、第2関節にはまるで風でしなる柳の枝のように力を入れず、第3関節(MP関節)だけをたくさん動かして弾いてみる。
上記は1つの発想の転換でもあるのです。
その方法自体で、その箇所をより理想的に弾けるようにはならないかもしれません。
しかし、何かのきっかけや気づきは必ず得られることでしょう。
今度は、感情の視点から、心配事をながめてみます。
感情を利用して演奏をよりすばらしいものにするためには、感情をつねにモニターすることが大切です。
いつもとちがう環境で演奏しているときや、いつもとちがうピアノで、何かがしっくりこないときなど、ほんの少しのうしろ向きの弱い感情を、演奏中にに一瞬感じてしまうことがあります。
そのうしろ向きの弱い感情「不安」「動揺」「感傷的」「倦怠」「苛立ち」をそのままにして放置すると、危険な状態になります。
その弱い感情は、すぐに「心配」「驚き」「悲しみ」「嫌悪感」へとレベルアップしてしまう可能性があるからです。
そういう時は、私たちの顔、「表情」を利用することも1つの方法です。
人は「喜び」などの楽しい感情のとき、にこやかにわらった表情をしたり、うれしそうな表情をしたりします。
また、目の前にほほえんでいる人、わらっている人がいると、その相手の感情を自分も同じように感じることができます。
(情動的共感性※7 自動化する前にを参照)感情が、表情を作ることは事実ですが、実はその逆も起こります。
感情と表情は双方向に作用するのです。
私たちが意識してに表情を作ることによって、感情を呼びおこすこともできるのです。
まずは自分で鏡を用意して笑顔を作ってみましょう。
笑顔を作るときには、楽しいことや楽しかった思い出などをいっしょに思いだしながらやると効果的です。
鏡を見ながら口角(口の端の方)を5mmあげて見ましょう。
それだけでも十分に笑顔になれます。
鏡の前で、さらに楽しそうな表情が作れるようになったら、実際の演奏時に早速使ってみましょう。
演奏中に、一瞬、後ろ向きの感情が生まれた時、すかさず笑顔を作ってみましょう。
良い笑顔が作れると、セロトニンという伝達物質が分泌されます。
セロトニンは「幸せホルモン」などとも呼ばれますが、精神を安定させ、意欲を高める効果をもっています。
またストレスを抑制する効果もあり、落ちつきをとりもどす効果もあるため、結果的に体の緊張もほぐれ体も心もリラックスできるのです。
陸上の神様と言われた名選手カール・ルイスが100m走を走る時、80m付近までは3番手か4番手にいて、残り20mでさらにスピードを上げ、追い抜いて勝つというレース展開をしていました。
80m付近で彼は顔の筋肉を緩め、笑顔を作っていたのは有名な話です。ぜひ今日からあなたも演奏に取り入れて見てください。
笑う表情、にこやかな表情を演奏中に使えるようになったら、さらにもう一歩ふみ込んで、呼吸に注目しましょう。
と言っても難しいことではありません。
口呼吸ではなく鼻呼吸をするだけです。
鼻呼吸には脳疲労を軽減してより気持ちを前向きにする効果があります。
また、鼻呼吸は、口呼吸より呼吸が深くなるので、肺をよりふくらませることになります。
肺がふくらむには背筋が軽くのびてリラックスした状態が必要なので必然的に演奏にもよい姿勢になるのです。
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