私はピアノを習い始めた頃、ミシンやプリンターなどを作っているブラザーという会社が当時作っていた電子オルガンを買ってもらい練習していました。
最初の頃はオルガンを触るのが楽しくて毎日30~40分くらい練習していましたが、片手の曲が両手になり、少しずつ難しくなっていく頃、友達と外で遊ぶことがとても楽しくなり、ピアノの練習量がどんどん減っていきました。
自分自身はその頃、一番楽しいと感じること(友達と遊ぶこと)を楽しむこと集中していたのですが、実はピアノのレッスンでタッチについて指導をしていただくにつれ、それを練習でカバーできなくなっていたのです。
ブラザーの電子オルガンは、昔なので当たり前ですが、現在のタッチによって音量や音色が変化する電子ピアノとも違い、タッチはピアノと違い、昔の小学校に置いてあったオルガンと同じスカスカのタッチで、タッチを変えてみても音色には何の変化もなかったのです。
心配してくれた先生が「ピアノはもう楽しくなくなってしまったの?」と聞いてくれたとき、「本物のピアノで毎日練習できたら楽しいと思う」と何気なくいった言葉を、たまたまその場にいた楽器会社の方が聞いていて、その日に自宅まで来てくれ、まるで魔法のようにアップライトピアノを買ってもらうチャンスに恵まれたのです。
先生のお宅にあるグランドピアノとまではいかなくとも、タッチが変化してくれるアップライトピアノは当時小学校3年生の私にとって魔法の楽器でした。
練習中にタッチを変えると音量や音色が変化することが面白く、またペダルも使えるようになって、本当の意味でのピアノの音色をコントロールする喜びがわかった頃でした。
それから小学校6年生の頃自宅を新築することになり、親戚所有の長いこと誰も住んでいない廃墟のような古家に3ヶ月ほど住んだとき、事件は起きました。
当時、実力が伴わないにもかかわらずある有名コンクールを受験することになったのです。
そして当時、またピアノに対する意欲を失いかけていた時期でもありました。
友達と一緒にするバスケットボールの楽しさに心を奪われてしまっていたのです。
とそのとき、私の目の前に、当時あこがれていたマイコン(現在のパソコン)をぶら下げられ、馬がぶら下げられた人参に向かって必死に走るように、必死に何時間も練習したのです。
すると、私のアップライトピアノは、中音部から次高音部にかけて音が広範囲にわたって突然鳴らなくなったのです。
鳴らなくなったピアノの鍵盤を何度も強く叩くと、なんだか奇妙な小さな小さな音が鳴り始めました。
小さな音でチューチューと… そうです。
古家のネズミが巣を作り繁殖していたのでした。
たくさんのアクションだけでなく響板までねずみにかじられていたため、修理は途方もない金額になってしまうとのことでした。
そして、頑張っていた私に次に与えられたのは、グランドピアノでした。
グランドピアノは、アップライトピアノよりもさらに表現力があり、また音にパワーがありました。
私はマイコンそっちのけでピアノに夢中になりました。
私は最初、音を自在に出すことに「喜び」を感じて演奏を楽しみ、その後、アップライトピアノを手に入れ、音色の変化にすっかり魅了され、また「喜び」を感じてピアノ演奏を楽しみました。
最後はアクシデントのおかげで、グランドピアノを手に入れ、より一層のパワーと表現力を持った楽器を手に入れ、演奏するチャンスを得て、毎日ワクワクしながらピアノを弾く「喜び」を味わったのです。
私の場合は、楽器が変わるごとに楽器の持つ表現力が徐々に豊かなになっていったため、操る難しさを感じながらも、コントロールする満足感を味わって、ピアノ演奏の楽しみに集中することができたのです。
先ほどの「22 視点は全てものを違う世界に変えてしまう」の項の4つの項目に当時の私の状況を当てはめてみます。
1. その時の自分にとって最適な難易度の表現力を持つ楽器である。
2. 新たな楽器による豊かになった表現力が自分自身のコントロール下にある。
3. 音、タッチの状態から以前の楽器よりさらに明確な情報が得られている。
4. マイコンを手に入れたい気持ちと、新しい楽器を得た喜びが、友人の誘いなどの集中を乱す周りの状況から心が切り離されている。
これらの要素が満たされた時に、楽しみに集中し、最高の集中力を発揮し続けることができるのです。
残念ながらコンクールは予選落ちしましたが・・・、マイコンは手に入れました!
常に「楽しいこと」に焦点を定めて毎日を過ごしていると、ときに「もっと楽しいこと」に遭遇することがあります。
その「もっと楽しいこと」を楽しんでいると、一時的にマンネリ気味になってしまったピアノも、なぜか楽しい方向に向かって動き出すのです。まるでピアノが、「ピアノももっと楽しいんだよ!」と話しかけてくれているようでした。
もし、ピアノがちょっぴりマンネリ化してきたなぁと思ったときは、かならず「もっと楽しいこと」探すようにしてください。
そうして楽しんでいれば、ピアノもまたすぐに楽しくなります。
「楽しいこと」をつねに探して楽しんでいれば、あなたのまわりで楽しいことばかりが連鎖的に起きていくようになるのです。

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