前の記事で、初めてSteinwayについて文章化してみてから、頭の中で「なぜ?」が止まりません。

書いた時点では納得していたのですが、特に、「側鳴り」という言葉を使っていた部分です。

それに対して、「遠くに音を跳ばす」と書いていましたが、わかりやすくするために「遠鳴り」と呼ぶとします。

(最初からそう書けばよかった。)

何となく心の中で整頓せずに意識していた概念だったので、実際整理して文書化してみると本当?ともう一人の自分が何度も聞いてくるのです(笑)

もう一人の自分を納得させるために、いろいろ調べてみました。

「インハーモニシティー」という言葉をご存知でしょうか?

専門的な現象、原理は省いて(私も完璧に理解できていないと思うので)わかりやすく日本語で考えると、不調和度です。

これはわかりやすいですね。

要は、ピアノの調律において、「ラ」の1オクターブ上の「ラ」を単に倍の周波数で合わせてしまうと、実際には音にうねりが多くなってしまうので、高音部は若干高く、低音部は若干低くすることがうつくしい音作りにつながるのです。

原因は、ピアノという楽器の特性にあるようです。ピアノの弦は、非常に剛性が高く、またピアノは弦の張力が非常に高いため起こる現象のようです。

この「インハーモニシティー」が高い場合には音に緊張感が乗ってくるし、低い場合には柔らかい音になるのです。

Steinwayはピアノの設計上、インハーモニシティーが他の楽器より高いようです。その場合、音は遠くに跳ぶ傾向が高くなるようなのです。(違っていたら教えてください。勉強します。)

対極の楽器としては、以前一緒に仕事をした先輩ピアニストがBlüthnerのModel2(だったかな?)をお持ちだとおしゃっていましたが、非常にやらかくてまろやかな音を持っていると思います。

そう考えると、職業での本番を抜きに考えれば、良い側鳴りのするピアノを自宅で弾くのは本当に幸せなことだとも思います。

今日の私の思考の中では、次のようにまとまりました。(また変わるかもしれませんが。)

インハーモニシティーはまず、楽器の設計でその傾向が大体決まって、それによって、側で美しいを鳴らす傾向のピアノと、遠くに美しい音を運ぶピアノが両端にある。(もちろん、その間にたくさんのピアノがある。ここでは単一の尺度だけで見ていることをお許しください。)

そのインハーモニシティーを考慮してピアノ技術者は自分の個性を発揮して美しい音作りを行う。

そのピアノを弾くピアニストが、さらに3度や4度などの音程を弾く時に、自分なりに各音の大きさのバランスをコントロールして、美しさを変え、音の鳴るタイミングや時間差をコントロールし、個性を表現する。

となると、最後に残るは、現在の優れた楽器製作技術によるピアノ1台1台(同じ機種)に個体差はあるのか?ということです。

これは20代の時にお世話になった有名なコンサートチューナーから伺ったお話につきると思います。

ピアノのフレームは、フレーム制作後に並べて1台ずつ叩いてみると、全く1つとして同じ音のものはなく、ものすごく大きく質の良い音でなり続けるものもあれば、音自体にあまり力がなく、しおれるように音が消えてしまうものもある。あまりにも酷いものは使わない。

これを聞いただけで、楽器には部品の時点ですでに個性が生まれているのだと感じます。

さらに、現在調律をお願いしているピアノ技術者(コンサートチューナー)から聞いた話では、オーバーホールのためにピアノからフレームを外して、響板だけになったピアノの響板を叩いてみると、それはもう「ボーン」とすごい音がする。メーカーや、楽器自体の個体差も(同じ機種間でも)とても大きく、響板を叩けばよくなる楽器かどうかよくわかる、Steinwayはとにかく良く鳴るそうです。

(いつか自分のピアノの響板を叩いてみたいです!)

響板やフレームにおいてもそうなのですから、自然の要素が多いアコースティックな楽器はやはり、個人が感じる個体における好み、良し悪しを見分けるのは謎解きのようで楽しいことです。

技術者が手を入れれば、手を入れるほど、その楽器の長所を伸ばすことも、短所を補うこともできると思います。

その辺に関してはピアニストができることはほとんどないと思います。ピアニストができることは、良い技術者、自分と相性の良い技術者を見つけることだけです。そして、自分の好みの音やタッチを的確な言葉を使って彼らに伝えることです。

ピアノの選定においては、その楽器が持つであろうポテンシャルを数値化することはできなくても、技術者による調整の可能性をある程度判断できるようになると、楽器の本当の姿が見えてくると思います。

と言っている私も、時に、楽器の持ち味と技術者の技術がどのくらい入っているか?の判別がつきにくくて、頭を抱えることもあります。

ただ、そういう場合にも、楽器に高い評価が下せるのであれば、買い手にとってはOKだと思っています。

そして、ピアノは時間ともに、楽器自体が落ち着き、なじみ、さらに良い音を奏でてくれることが多いです。、置かれている場所や、気温、湿度、またはその幅によっても熟成度?は変わります。ワインと同じで、置かれている場所の環境との相性もとても大切です。

とても、高価で良い楽器をお持ちなのに、いつもすぐ調律が狂うし、楽器の鳴りがいまひとつだ、とおっしゃる方から相談を受けることがありますが、良い調整がされていると仮定した場合には、大抵、ピアノを置いている部屋との関係に原因があります。

特に、温度、湿度の管理の場合がほとんどです。

除湿機で湿度管理されていてもピアノにはエアコンの風があたり、乾燥しすぎだったり、詳しく聞いてみると、ピアノを弾く時にしか除湿機入れないなど、管理につながっていない誤解があることもあります。

とっても温度の低い冷蔵庫にワインをずっと保管してしまうようなものです。

湿度計は、是非一度ピアノの中に置いてみて測ってみてください。

下の写真は同じ部屋の同じ時間の気温と湿度です。温湿度計は誤差をアプリで揃えています。2台あれば同じ部屋の中でも必ず差が生まれます。

Categories:

Tags:

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です