実際に休憩する前は、もうちょっと弾ける、大丈夫、などの思いを持たれると思います。

しかし、休憩してみると、意外に疲れていることもあります。

頭が疲れている場合と、体が疲れている場合、両方が疲れている場合です。

頭が疲れているときは、思考のスピードが極端に落ちてぼーっとしてしまったり、急に甘いものが食べたくなったりしてしまいます。

 人間の脳がなにかを考えるとき、おおざっぱにわけると、「ワーキングメモリー」、「熟考機能」、「デフォルトモードネットワーク」に分かれています。

なんだかわかりにくいので、ここでは、「浅く考える機能」、「深く考える機能」、「ぼんやりと考える機能」としましょう。

ピアノの練習をしているとき、あれもやろう、これもやろう、とがんばっていると、脳はたくさんの情報にさらされることになります。

そうすると、「浅く考える機能」ばかりをつかうことになり、脳は疲れてしまうのです。

脳が疲れると、、「浅く考える機能」の精度が落ち、「深く考える機能」、「ぼんやりと考える機能」がだんだんと働かなくまります。

その結果、ミスが多くなったり、ささいなことにこだわったり、イライラしてしまったりすることになるのです。

そして最終的に、どう表現したいのか深く考えたり、曲全体の構成が、どうやったら自然で印象的な音楽になるのかぼんやりと頭の片隅で考え続ける機能まで低下してしまいます。

「疲れているか?」、こまめに自分をチェックしてあげることでより効果的な休憩がとれるようになり、スムーズに練習がすすむようになります。

 つぎに、体が疲れている場合はどうでしょうか?

コンクールや受験などで、ピアノを弾く時間がだんだんと長くなってきたり、気になる部分の練習を何度もくりかえしした時などにだんだんと疲れがたまってくる原因はたくさんあります。

筋肉の疲労は、全身がだるい感じがしたり、特定の筋肉の部分に痛みを感じたりします。

そして、その疲労を回復せずに過ごしていると、やがて体全体の疲労になり、全身倦怠感などが起きるようになるのです。

まれにある事例なのですが、体に負担をかけすぎる練習や、長時間の練習を何ヶ月も続けてしまったことが原因で、筋肉の疲労や痛みにだんだんと気づかなくなってしまうケースがあります。

この場合は非常に危険です。

脳内には神経伝達物質があり、セロトニンという神経伝達物質は、感情をコントロールして心を安定させるはたらきがあります。

慢性的に疲れが溜まってくると、すでにセロトニンが不足した状態であることが多いのです。

セロトニンはノルアドレナリン、ドーパミンという神経伝達物質を制御するはたらきがあります。

ノルアドレナリンは、怒り、恐怖、驚きなどの情報をコントロールします。ドーパミンは、喜び、安らぎ、快楽などの情報をコントロールします。

この2つの情報が適切に処理されなくなると、疲れているのに疲労感を感じにくくなることがあるのです。

疲労感を感じにくくなると、自分の筋肉が正常に動いていないのに気づきにくくなり、もっと、もっと、と酷使してしまい、筋肉や体を壊してしまうことになってしまいます。

こういう状態を慢性疲労などといいますが、そうなるまえに疲労をコントロールするのが理想です。

 もし、事前にそろそろ疲れるな?、という感じがわかれば、疲れをいやしたり、筋肉痛を防いだりできると思います。

それでは、どうやって筋肉が疲れ始めたことを察知すれば良いのでしょうか?

残念ながら、私たちの体についているセンサー(五感)では筋肉の疲れ始めを知ることはできないのです。

筋肉痛は、一般的に運動が終わったあと数時間、数日後におこるのです。

よく、同じパッセージを練習している時に、なんだか前腕の一部が痛いな、などと感じる時はすでに前日やもっと前からその筋肉を酷使して炎症がおこり、結果的に痛みがおこることが多いのです。

でも、大丈夫です。

五感で感じられなくても、私たちには知恵があります。

同じ練習を漫然とおこなわず、同じ練習は毎日ごく短時間にして、できるかぎり集中しておこなうようにしましょう。

力を抜いて弾ければ弾けるほど、体は長時間使っても疲れにくくなり、むしろ、脳の疲れが先に来るようになります。

脳の疲れがいつも先にくる、その時に体の疲れをあまり感じなければ、弾いている曲にたいして、体の力がうまく抜けた練習ができている、すなわち、曲に対しての脱力がある程度うまくいっているのではないでしょうか?

後にくわしく触れますが、ピアノを弾く時の「脱力」とは、体の力をより楽に保つことです。

ピアノを弾く時に、「美しい音、音色を追求すること」と、「力が抜けて、楽に弾ける状態をさがすこと」は、視点は違いますが、おなじことなのです。

どちらを追求しても、もう一方はかならず答えになるのです。

表裏一体なのです。美しい音を出したければ、より体の力を楽に保った状態で弾けばいいし、体の力をより楽に保ちたければ、より美しい音、ハーモニーをイメージすればいいのです。

逆に言えば、体に力が入っていては、美しい音を出すのに苦労するし、ピアノから出てくる音が美しくなければ、体に力が入っていることが多いということなのです。

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