ピアニストが「こう弾きたい!」と思う考えを実現するため行なっていることは、さまざまな要素の自動化(無意識化・習慣化)です。

自動化は、自転車の例と同じく、誰にでもできることです。それでは、自動化を進めるため、さきほどの箇条書きの項目をよりくわしくみていきましょう。

・ピアノの大きさ(家のピアノよりもホールのピアノはとても大きい、コンサートグランドピアノ)

自宅のピアノがグランドピアノであったならば、そのピアノを基準にコンサートグランドと比較していけば良いでしょう。

自宅にあるグランドピアノはおおよそ全長が180センチ前後のものが多いと思いますが、コンサートグランド(セミコンサートグランドも含む)になるとおよそ220センチ以上300センチを超えるものまであります。

グランドピアノは長くなれば長くなるほど弦も長くなり、よりパワーのある迫力のある音を奏でることができます。

そして弦が長くなったことにより倍音も豊かになり表現力も増すのです。

楽器にもよりますが、小さな楽器に比べて、低い音はより伸びがあり大きく迫力のある音で、高い音はより繊細に華麗に響きます。

大きい楽器で弾く時に最初に意識することは、中音※以下の音のバランスに気をつけることです。

家のピアノと比べた時に頑張って低音など鳴らしすぎると想像以上のパワーが出ますので、最初弾き始めた時は、少し絞って出すよう心がけると良いかもしれません。

※ピアノの音は低音・中音・次高音・高音に大きく分けられます。乱暴に言ってしまえば(例外もありますが)ピアノの蓋を開けるとフレームがあり、そのフレームが大きく4分割されていると思います。その範囲が左から低音・中音・次高音・高音となると捉えると分かりやすいでしょう。

・ピアノの弾きやすさ(ピアノのメーカーにもよるが家のピアノとの比較となるため違いがある)

今日のコンサートグランドピアノはほぼ100パーセント出荷する前に何度も鍵盤の重さを調整(鉛調整※等)してあります。

これは非常に手間のかかることですが、弾きやすさに直結してきます。

鍵盤の重さが均一であればあるほどより意識せず演奏に集中できます。

一方メーカーにもよりますが、小さいサイズのピアノの場合、コストの面から、鉛調整が省かれていることもあります。

自分のピアノの鍵盤の重さにばらつきがあったり、重くて弾きにくいと思う方は調律師に鉛調整を頼んでみましょう。

鍵盤の重さに意識が向くようになると、自然と自分の右手左手の指一本一本のタッチにムラがあることに気づくことになるでしょう。

指ごとのタッチのムラに気付けたらとても良いことです。タッチのムラを耳を使って、より正確で美しいタッチにコントロールできるようになるでしょう。

※鍵盤にはタッチの重さを調整するために、鉛が入れられています。鍵盤の重さを計測して、鉛の量や位置を修正することで、均一なタッチにすることができます。鍵盤が下がる重さ(ダウン)を揃えることはもちろんですが、上がる力(アップ)を揃えることで、弾きごこちが格段に上がります。

・ペダリングの違い(踏みやすさ、靴を履いているかいないかなどの違いがある)

 みなさんがペダルを使う時、一番右のペダルを一番多く使うのではないでしょうか?

一番右のペダルはダンパーペダルと呼ばれています。ペダリングは、実はピアノ演奏の中でも一番難しいのではと言われるくらいに奥の深い技術です。

ペダルは、踏むことによって、ピアノの弦に接触していたダンパー※が持ち上がるため、弦が響き続けることができるようになります。

そうして響かせた音を、ペダルを戻すことによって、音を止めることができるのです。

一般的に言われているペダリングとは、響かせた音を、止める瞬間の前後の技術のことを言います。

ピアノのメーカーなどによっても、踏んだ時に若干の重さの違い、などもありますが、一番の違いはダンパーのフェルトの硬さです。

柔らかければより繊細に音を止めることができます。

ダンパーが柔らかくなると耐久性は落ちますが、楽器が高価になるとより柔らかいダンパーが使われる傾向があります。

ただしメーカーの考え方もあるので、一様ではありません。

ペダルを裸足で踏むか、靴を履いて踏むかですが、一般的には靴を履いてペダルを踏む方が、長時間の演奏には楽だと言えるでしょう。

コンサート時には靴を履いて踏むことになるため、あらかじめ家で靴を履いて練習する時間を取るとよいでしょう。

ピアノの白鍵黒鍵の各鍵盤にはダンパーという音を止める部品がついています。指で鍵盤を押し下げている間はダンパーが弦から離れていますが、鍵盤から指を離すと、ダンパーが弦に接触して弦の振動を止めるため、音が止まります。

・鍵盤数の違い(88鍵以上のピアノもある)

ホールによっては、コンサートグランドピアノの中でも鍵盤数が多く大型なベーゼンドルファーの「インペリアル」等のピアノが設置されている場合があります。

実際には低音部がより低い音域まで拡張されているのですが、通常はカバーをされていることも多いです。

しかし、間口(ピアノの前に座った時の左右の幅)が非常に大きいため、人によっては遠近感がつかみにくかったり、自分が弾き始める鍵盤の位置を見つけるのに、迷ってしまうことがあります。

あらかじめ事前に試弾できる場合は問題ありませんが、いきなり演奏しなければならないコンクールの場合など、前もって意識しておくと良いでしょう。

・空間の大きさ(ホールの空間はとても大きい)

コンサートホール通常の自宅等の部屋とちがい、天井が非常に高く設計されています。

そのため、ホールにもよりますが、客席数が多い大きなホールの場合、自分の鳴らしたピアノの音が聞こえるまでに、若干の時間差を感じたり、聴こえにくかったりすることがあります。

大抵の場合はピアノの場所を数センチ単位でステージの奥や手前に向けて移動させてあげることによって、聴き取りやすく調整することができますが、時に、トレードオフで、客席に響く音にばらつきが出たり、客席全体にぼやけた音で響くことなどがあり、実際には経験が必要になります。

とても弾きやすい場所にピアノを移動した時に、ホールの前の方ではとても聴きやすいのに、後ろの方に行くと高音と低音のバランスが崩れてしまったりすることもあります。

ピアノ愛好者の方は、なかなか自分でピアノの位置を決めることはないかもしれませんが、実際には設置する時に悩ましいホールがあるのもまた事実です。

・残響の違い(ホールの残響※は家より豊かで残響時間が長い)

ホールの残響は、お客さんがいない時(空席時)、お客さんがたくさん入っている時(満席時)によって残響が変わります。

お客さんがたくさん入っている時の方が、残響時間は短くなります。

リハーサルでホールのピアノを弾いた時はとても弾きやすかったのに、本番にたくさんのお客さんが入った時に響きが変わってしまい、動揺してうまく弾けなたったと言うこともあります。

あらかじめお客さんが入った時には残響が短くなると言うことを意識してリハーサル等に挑むと良いでしょう。

・音の反響の違い(家と比べて反響する空間がとても広いので自分が鳴らした音の行方を知る必要がある)

ホールの特性によって、自分が鳴らしたピアノの音がホールの隅々に行き渡るのが分かりやすいホールがあります。

そういうホールの場合はホールの特性も素直なので自分の鳴らしたピアノの音の行方を聴き分けるのも非常に分かりやすいのですが、そうでない場合もあります。

ステージから見て一番遠い場所、ホールの奥からの反射音がかき消されるように消えていってしまう場合です。

そういう場合、私たちが頼りにできる情報は多少減ってしまいますが、落ち込むことはありません。

自分の鳴らしたピアノの残響がバランスよく聞こえている時間に集中しましょう。

そして、多くの場合、少しだけ普段よりペダリングを短めにコントロールして音切れを丁寧に感じると、良い結果が出ることがあります。(もちろん、そうでないこともあります。)

ピアニストは、実際の自分の演奏の残響音を、観客席で生で聴くことはできないのがもどかしいところです。事前にリハーサルなどがある時は他の人に聞いてもらうと良いでしょう。

・明るさの違い(ホールは照明が十分に鍵盤やピアノに向けて調整されているのでとても明るい)

コンサートホールの照明は自宅等の照明と違い、たくさんの方向からたくさんの光量でてらしてくれるため、非常に明るくて弾きやすく感じるでしょう。

しかし、注意することもあります。

あまり明るすぎると、演奏中に鍵盤や鏡面(ピアノの自分の手や鍵盤が映る鏡のような部分)に光が反射して眩しく感じてしまうことです。

多すぎる光の反射は、一度気になると演奏の妨げになることもありますので、そういう場合にはあらかじめ光の量をホールの人に調整してもらうのも1つの方法です。

もう一つは照明が多方向から当たるため、鍵盤に影が発生してしまうことです。

影が発生する状況にも大きく分けると2種類あります。

1つ目はピアノの奥から照らされている光が原因の場合です。

その場合は白鍵部分に線のような影が発生しますので、気になる場合は多少照明を弱めてもらったり、妥協できる光の量を調整しましょう。

2つ目は、鍵盤の前に座って右上部からの光が強すぎる場合です。その場合、黒鍵の影が白鍵に写り、縦に線が発生することがあります。この場合も気になるようであれば、光の量を調整してください。

(自宅等でも発生しますが。自宅は光量が多すぎる場合が少ないので意外と気付きにくいことが多いです。)

・椅子の違い(自分の椅子を持ち込めれば同じだが基本的に座り心地が違う)

ホールに備え付けのピアノの椅子には、大きく分けると背もたれのある椅子と、背もたれのない椅子があります。背もたれのある椅子(トムソン椅子)は高さの調整がしやすい利点がありますが、長時間座っているとお尻が痛くなることもあります。

背もたれのない椅子(ベンチタイプ)はホールに置いてある椅子の場合、ある程度クッション性もあり座り心地も良いため、疲れにくい反面、おしりが沈み込むので人によっては好き嫌いが分かれるところです。

自分が一番心地よいと感じる椅子を選んでください。

・人間の数(自宅では一人だが、ホールにはたくさんの聴衆がいる)

自宅で練習する時は1人でも、聴いてくれるお客さんの数が、10人、100人、1000人と増えていくにつれ、たくさんの人の注目が演奏者に集まることになります。

そして、人と人が同じ空間にいるのですから、あなたの演奏にお客さんが共感してくれることも多く起こります。

その共感には2つの種類があります。

あなたが弾いたピアノの音楽に、あなたが感じているような気持ちと同じような気持ちになって共感してくれる場合(情動的共感性)と、あなたの感じている気持ちを「演奏している人が、こう感じているのだろう」と理解する場合(認知的共感性)があります。

もちろん、残念なことに中には共感してくれない人もいるかもしれませんが・・。

指揮者、演奏家、コンクールの審査員など、職業的に音楽に携わる人は、2つの共感性を同時に持ち、バランスをとりながら客観的に弾いている人の音楽に接しています。

一方、音楽好きのお客さんなど、情動的共感性が強い人や、常に音楽をたくさん聴いて自分なりのこだわりを持っている認知的共感性の強い人など、いろいろなバランス感覚の人がいるのです。

私の経験上ですが、お客さんお数が少ない時のほうが情動的共感性を多く持っていただくことが多いと感じることがあります。

逆にお客さんの数が多数に増えると、その傾向は打ち寄せる波のようになり、時間と場所によって、弾いている側はさまざまな印象を持つことが多くなります。

・衣装の違い(ホールでは特別な衣装を身につけることが多いため体の動きに制約を受けることがある)

普段、自宅などでピアノを弾く場合、弾きやすい服装を自然に選んで演奏することが多いと思いますが、ホールなど人前で演奏をする場合、ドレスなど装飾の多い服装で演奏することもあると思います。

女性など、ドレスが足先を覆い隠してしまう場合など、ペダルの位置がわかりにくい場合などもあると思います。

自分の気に入った衣装を着て演奏することによってより高いモチベーションで演奏できることと思います。

しかし、どんな衣装も、事前にかならず何度も試着して演奏してみてください。

 

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