私がピアノを習いはじめたのは小学校一年生のころでした。

友達が奏でるピアノの音を聴いた私は「なんてきれいな音が出るんだろう!? どうやって音が出ているの? 僕も弾いてみたい! うらやましいなぁ・・。ピアノが欲しい!」

と、長年探しつづけていたものをついに見つけた気持ちになりました。

 小学校の授業が終わるやいなや、女の子の友達のピアノのレッスンについて行きました。

ついていけばすぐに弾けると思っていたのです。

しかし、ピアノの先生は「お母さんに相談してね?」と言い家に返されました。

あたりまえの事ですが、門前払いされ、すぐに弾かせてもらえないことに大ショックでした。

それでも、どうしてもすぐにピアノを触りたいと走って家に帰る途中、急ぎすぎて転んでしまい、ひざとモモを豪快に擦りむいて血だらけになりながらも、どうにか家にたどり着き母親に懇願しました。

すると母親は「男の子なんだから、外で遊んできなさい!」と突き放されれる始末。何度食いさがっても聴いてもらえませんでした。

 1週間もの間悶々としながらも、ピアノに対する興味は増す一方でした。

がまんできず、ついにまた友達のピアノのレッスンについて行くと、先生に「お母さんに相談したの?」聞かれ、とっさに「はい、習っていいそうです。おしえてください。」とうそぶいて、「これでついにピアノが弾けるぞ!」とワクワクしながらレッスン室の大きなグランドピアノに向いました。

すると先生はやさしく、しかし、しっかりと私の両肩を抑え、「お母さんと一緒に来てね。」とまた追い返されてしまったのです。

ただピアノが弾きたくてたまらないだけなのに……

 考えた挙句、「明日から習えるまで学校を休もう」と、ストライキを計画しさっそく決行しました。

すると意外にも「ピアノの先生から電話かかって来てたよ、習うって言ったんだって? ……習っていいから早く学校に行きなさい。」

これが私の最初のピアノ演奏人生の第一歩だったのです!

 私の第一歩のように、突き動かすような気持ちで「ピアノが弾きたい!」と思うこともあれば、学校の授業で気が進まない日でも歌を歌わなきゃいけない時など、演奏する時間は望んでも望まなくてもやってきます。

最初「ピアノが弾けること以上に、人生で素晴らしいことなどあるはずがない!」と思っていた、まだまだ短い人生の小学校一年生男子も、小学校の学芸会でピアノを弾くことになると、途端に憂鬱な毎日になりました。

昔、私が住む田舎ではピアノを弾く女子はたくさんいても男子がほとんどいなかったので、人前で弾く行為そのものが恥ずかしくてたまらなかったのです。

 演奏する直前になると、もう自分が何を考えているかすら分からず、心臓はバクバク、手は震え、のどは乾き、「まちがったらどうしよう」、「止まってしまったらどうしよう」、「演奏が終わったあとからかわれたらどうしよう」、など悪い状況ばかり想像し、肝心の演奏中の記憶は残っていませんでした。

演奏自体は最後まで止まらずに弾けたのだけれど……

 年齢を重ねても人前で演奏することに慣れることもできず、私の場合はいつまでたっても緊張しっぱなしの演奏人生でした。

しかし、だんだんと回数を重ねていくと、色々なことに気がついて来たのです。

 例えば、ミニコンサートでの演奏中に自分のピアノの音に集中していても、時には色々な音が聞こえてくることがよくあります。

特に防音設備が整っていない場所では、鳥の声とか、車の音、ドアの開閉音、その他にも色々な音が聞こえて来ました。

しかしなぜか、そういう音が聞こえる時は少しだけ落ち着いた気持ちで弾けたのです。

 また、コンサートホールなどピアノの音がどう響いているか自分によく聴こえる時は、最後まで自分の音を聴きながら弾くことができました。

逆に、自分の音が聴き取りにくいと、不安になり、どんどん緊張がエスカレートして、うまく弾けた感じがしないこともありました。

 体調が良い時、悪い時でも、弾く前の気分は大きく違います。

演奏直前の気分に影響され、自分が一番素敵だ!と感じる演奏ができないこともたくさんありました。

演奏前に集中力を高めたつもりなのに弾き始めた途端消耗してしまったように力が出せず、思い通りの演奏ができないこともありました。

そうしてだんだん人前で演奏することが億劫になって行きました。

 しかし、演奏経験を積んでいく過程で、ある日、突然「楽しい」と言う感情がわいてきて、その日は最後まで楽しんで思いどおりの演奏ができたのです。

そして、演奏中の感情が演奏そのものに大きな影響を及ぼしていることに気がついたのです。

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